衛星ストーキングという新しい犯罪。19歳地下アイドルの被害実態

2033年2月20日

■新たな技術を応用した闇ビジネスの実態

「どこまでも追いかけられている気がして、本当に怖いです」

悲痛な叫びを上げているのは、地下アイドルの大池ミマさん(19歳)だ。

筆者が指定した喫茶店に、タングステンが編み込まれた日傘をさして訪れた大池さんは、席に着くなり、何かに急かされるように被害の全貌を話し始めた。

■衛星ネットワークを介したストーキング被害

「私の居場所を1時間おきにSNSに投稿する変態野郎がいるんです。もう、本当にとっ捕まえて欲しいんです。リアルタイムで監視するなんて絶対に許せない。」

恐怖と憤怒に満ちた表情からは深刻な事態に直面していることが伺える。

「詳しい人に調べてもらったら、ダークウェブ上に、衛星ストーキングサービスを提供する闇サイトがあって、そこで1ヵ月8万円ほどで、特定人物の居場所を随時追えるみたいなんです」と大池さんは語った。

取材後に調べてみると、確かに衛星ストーキングというサービスをダークウェブ上で見つけることができた。ただ費用は異なっており、特定の人物を追跡するには1ヵ月に30万円程度の費用がかかるようだ。本当に追跡できるのかどうかまでは確認ができなかった。

■野良(のら)衛星の問題

ウィーンにある国際連合宇宙局(UNOOSA)に登録されている衛星の数を確認すると、現在、静止軌道上では、小型衛星を中心に、270万基以上の衛星がひしめき合っている。軍事衛星や違法な衛星等、登録されていない野良衛星を含めると、その数は300万基を越えているのではないかと言われている。

※ホリエモンが手掛ける超小型衛星「キュブエモン18252号機」

ときおりニュースなどで、衛星同士の衝突事故が表面化することがあるが、野良衛星の数が急増しているのが原因だそうだ。

違法取引のほう助や要人の暗殺などに使われる野良衛星ネットワークが、大池さんが訴える衛星ストーキングサービスの温床になっているようだ。

■片時も手放せない傘

大池さんはインタビューの途中、店内で急に日傘を差しだした。異様な光景を目の当たりにし、理由について訊ねてみると…

「この傘はタングステンワイヤーで編まれた生地でできた傘で、赤外線やマイクロ波を遮断できるんです。どうやっているのか分からないのですが、建物内にいても追跡できるらしくて、不安を感じたら、どこにいても傘を差すようにしています。」

建物内でも追跡できるとはにわかに信じがたい話ではあるが、衛星カメラでの追跡ではなく、AIによる行動解析や、スマートフォンの位置情報が抜き取られているとすれば、建物内での追跡も可能だろう。

■オンタイムアースの問題点

Geoops社が提供するオンタイムアースでは、15秒程度の遅れで、地球上の全てのオブジェクトのリアルタイム情報が提供されている。

交通事故の検証や火災の発見、事件や行方不明者の捜索、公共施設のメンテナンス等、さまざまな用途で活用されているが、プライバシー保護の観点から問題点も多い。

現在、指数関数的に地球を回る衛星の数は増えている。特にリーンサテライトと呼ばれる超小型衛星は、製造コストや軌道に投入するコストも安く、増加の一途をたどっている。

違法な野良衛星ネットワーク情報と、オンタイムアースが紐づくことで、新たな犯罪が生まれる可能性は高そうだ。

■取材後記

取材後、数日間に渡り大池ミマさんの位置情報がSNS上でバラまかれているかどうかを確認してみた。確かに、ある特定のアカウントから1時間おきに大池さんの居場所が投稿されていた。公表されている大池さんのライブ情報等と照らし合わせると、本人の所在地と一致している。インタビュー中、真偽のほどを判断し兼ねていたが、被害の方は実際におきているようだ。自分の位置情報をつねに公表される心理的なプレッシャーは相当なものだろう。自分自身におきかえて考えると事の重大さが認識できる。まだ19歳の大池さんが、さまざまな事に疑心暗鬼になってしまっているのも仕方のないことだ。

引き続き、この問題については、ウォッチしていきたいと思う。

記者 大坪潜在
潜在取材日:2033年2月10日
予測執筆日:2023年2月28日