2025年3月10日
■AI大失業時代
3回目となる今回の特集「AI大失業時代」の業種は、コールセンターサービスだ。
コールセンターサービスとは、企業や団体が顧客からの問い合わせや要望を、電話やメールなどで受け付け、適切な対応や情報提供を行うサービスのことで、その代行を引き受ける多くの専門事業者が存在する。
昨年から急速にコールセンターのAI化が進んでいるような印象を受けるが、今回は、12年勤務したコールセンターの派遣業務を、最近、解雇されてしまった水野育江さん(仮名・40歳)の話を聞くことができた。
「何の前触れもなく、突然、来月からお仕事がありませんと告げられました。私は無期雇用派遣だったので、安定して働けると思っていたのですが、コールセンターの業務自体が、すすべて無くなってしまったようなんです」
コールセンターの業務は多岐に渡る。世の中にあるすべてのコールセンターの仕事が、AIコールセンターに取って代わることはないと思うが、日本語に特化した大規模言語モデルの進化の速度を考えると、電話を介した業務の多くが、AIに置き換わってしまうこともありえるのではないかと思う。
「再来年から娘が大学に進学するんです。これからという時期にこんなことになってしまい、本当に困りました…。やっぱり正社員じゃなきゃダメだったんですね・・・」
大規模言語モデルAIの社会への浸透は、圧倒的な効率化の実現や、新たな社会問題を誘発し、派遣社員、正社員問わず、多くの人が、その影響を受けることになるだろう。悲壮感に満ちた水野さんの表情は、AI大失業時代の本格的な到来を告げる号砲のように感じた。
■AIコールセンターの実態
AIによるコールセンター業務を提供している会社を調べていると、先日取材したファンタスティックAIの岡部さんと同じアントレプレナーラボに、株式会社AIカスタマーサポートという会社があること知り、岡部さんに電話をしてみた。
「廣田くんがやっている会社ですね。紹介しますよ」
岡部さんに調整してもらい、電話の翌日に、(株)AIカスタマーサポートを立ち上げた廣田隆輝さん(20歳)の話を聞くことができた。
廣田さんに指定された場所は、東京大学駒場キャンパスのすぐ近くにある定食屋だった。
「すみません。ランチの時くらいしか、時間が取れなくって…」
取材を受けるのは今回が2回目ということで、会社の概況を伺ってみると、驚くべき状況となっていた。
「今、急激に顧客数が増えてしまって、ホント手が回ってなくてヤバいです。昨日までで、78社と取引を行っているのですが、、あっ、また1件受注が決まりました。」
スマホで操作をしながら、昼食も取り、インタビューに答える姿を見ていると、本当に忙しそうである。社員はまだ3名だけということで、採用も行っていきたい、採用する時間も取れないくらい忙しい状況だという。
「基本的は、契約したお客様の方でカスタマーAIの設定を行ってもらうことになっているので、導入にはほとんど手間が掛かりません。1万時間程度の音声データをアップロードしてもらえれば、あとは自動的にAIで情報の解析を行って、2~3日でソフトウェアを使用できるようになります。」
依頼してくる会社は、トラブル対応の為、普段から顧客との通話内容を録音している業者がほとんどの為、音声データを用意することは全く問題がないという。月額10万円で、コールセンターの自動化が行えるのであれば、乗り換える会社も多いだろう。
契約済の78社の顧客情報は教えて貰うことができなかったが、コールセンターを解雇されてしまった水野さんの背景には、廣田さんの会社の急成長が関係しているのかも知れない。
「メンバーとは、ほとんどすべてをdiscordでやり取りしてます。授業中もやり取りしているので、なんとかギリギリ回っています。お互い忙しいので、会う事はほとんどないですね。」
われわれの時代の授業中の内職と言えば、弁当を食べることくらいしかなかったように思うが、今の若者は内職で、事業の運営を行っている。とんでもない時代が訪れつつあるようだ。
■取材後記
取材後の雑談から知ることになったのであるが、派遣切りにあった水野さんは、20代の頃、占い師をやっていてメディア等にも登場し、人気を博していた時もあったそうだ。
最近、学生時代の古くからの友人が、AI占いサービスを提供する会社を立ち上げたようなので、水野さんに何気なくそのことを伝えたところ、昨日連絡があり、友人の会社に就職が決まったと水野さんから報告を受けた。こんな事もあるのかと、予測のできない展開となったが、近いうちに、友人の会社を取材してみたいと思う。
潜在取材日 2025年3月5日
予測執筆日2023年2月28日
記者 大坪潜在